所有している土地を売却する場合、古い建物の解体や境界線の画定など、住宅の売却とは異なる注意点があります。
ここでは土地を売却する方法や、注意点について見ていきましょう。
土地売却でよくあるパターンとそれぞれの注意点
古家付きの物件を「古家付き土地」として売却する
土地を売却するときに、その土地に古い住宅が建っていることは少なくありません。
というより、古い住宅を売るときに建物の価格がゼロになるため、結果的に土地のみの価格で売却するケースが多いのが実情でしょう。
日本の中古住宅市場では、建物の価格は欧米に比べて早く減ってしまうといわれており、木造一戸建ての場合は築20年前後でゼロになる場合がほとんどです。
そのため、築20年を超える一戸建てを売却するときは、必然的に「古家付き土地」の売却になることが多くなります。
その際に考えなければならないのは、建物を解体して更地の状態で売却するか、古家付き土地のまま売却するかという点です。
古家付き土地に新しい家を建てる場合は古家を解体する必要がありますが、解体費用は木造一戸建ての場合で100万円前後かかります。
建物を解体せず古家付き土地として売却すればこの解体費用を負担せずに済みますが、買主からその分の値引きを要求される場合があります。
また土地・建物を所有していると毎年かかる固定資産税と都市計画税は、住宅が建っていると土地分が大幅に減税されます。
固定資産税と都市計画税は毎年1月1日時点の土地・建物の所有者に課税されるので、住宅を解体して更地にしたまま年を越すと、その年の税金が大幅に増えてしまうので注意が必要です。
このように解体して更地で売却する場合と古家付き土地で売却する場合とでは、それぞれにメリットとデメリットがあります。
下記でメリット・デメリットをまとめましたので、古い住宅が建っている土地を売却する場合はそれぞれの特徴を考慮してどちらかを選ぶようにしましょう。
相続した土地を売却する
親から相続した土地を売却するのもよくあるケースです。
不動産を売却できるのは、その不動産を所有している人、つまり登記簿(登記事項証明書)に所有者として記載されている人だけです。
そのため親から土地を相続しても、相続登記をして土地の名義人を変更しておかないとその土地を売却することはできません。
土地を相続した場合は、売却する前に必ず相続登記の手続きをしておきましょう。
相続登記の手続きには、戸籍謄本や除籍謄本、住民票などの書類が必要です。
登記手続きは自分で行うこともできますが、手間と時間がかかるため、司法書士や土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
専門家に登記手続きを依頼する場合は、10万円前後の手数料がかかります。
土地売却の流れのステップは7つ
1.情報収集と必要書類の準備
土地を売却することにしたら、まずその土地の情報を集めることからスタートします。
自分が住んでいた土地なら調べなくてもわかることも多いのですが、そうではない相続した土地などは、最寄駅からの分数や周辺環境、更地なのか古家が建っているのか、といったポイントを整理しておきます。
売却に必要な書類や資料も、早い段階で準備しておきましょう。
必要な書類とは、本人確認資料や印鑑証明書、住民票、登記済権利書、固定資産税納税通知書などです。
ただし印鑑証明書や住民票は発行から3カ月以内のものが売買契約時に必要となるので、契約時に合わせて用意するようにします。
また、その土地の地盤調査報告書や購入時の契約書などの資料があれば集めておきます。
2.隣接地との境界線を確認する
土地を売却する際には、どの範囲の土地なのか、隣接地との境界を明確にしておく必要があります。
そのために必要な書類が、上記に掲げた地積測量図・境界確認書です。
また書類だけでなく、実際の土地にコンクリートなどの「境界標」があるかどうかも確認しておきましょう。
書類や境界標がなく、境界が明確でない場合は土地家屋調査士に作成や設置を依頼します。 この手続きには数カ月を要し、費用も数十万円かかるケースが多いので注意が必要です。
3.不動産仲介会社に土地を査定してもらう
準備がある程度整ったら、不動産会社に土地の査定を依頼します。
その際、まずはインターネットなどで土地の住所や面積など必要な情報を伝えて査定価格を提示してもらう「簡易査定」を頼みましょう。
簡易査定は依頼してから1~2日で査定価格が提示されます。
手軽に頼めるので、できれば4~5社以上に依頼し、提示された査定価格を比較するといいでしょう。
簡易査定を依頼した不動産会社の中から、対応の良い会社や価格の妥当性が高いと思われる会社を3社程度に絞り、実際の土地を現地で調査する「訪問査定」を依頼します。
訪問査定では土地が面する道路の状況や境界線、ガス・水道の配管状況、日照や周辺環境などが詳細に調べられます。
訪問査定から査定価格の提示までは1週間前後かかるのが一般的です。
4.不動産仲介会社と媒介契約を締結
訪問査定による査定価格が提示されたら、その中から納得のいく査定価格の提示があった不動産会社と媒介契約を結びます。
媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれルールが異なります。
一般媒介契約の最大の特徴は、複数の不動産会社と同時に契約できる点です。
また、一般媒介契約では売主が知人など自分で買主を探して売却してもかまいません。
不動産を売却するときには広く情報を行き渡らせれば買主が見つかりやすくなるため、不動産会社のネットワークであるレインズ(指定流通機構)に物件情報を登録するケースが多くなります。
ただし一般媒介契約は複数の不動産会社と契約できるので、不動産会社が物件情報をレインズに登録することを義務づけてはいません。
また不動産会社が売主に業務報告することも義務づけられておらず、契約期間も法律上は制限がありません。
ただ、国土交通省がひな型として策定した一般媒介契約の標準契約約款では、契約期間を3カ月以内としています。
一方、専任媒介契約は同時に複数の不動産会社と契約することはできませんが、売主が自分で買主を見つけることは可能です。
専任媒介契約では契約してから7営業日以内に不動産会社がレインズに物件情報を登録しなければならず、2週間に1回以上は売主に業務状況を報告しなければなりません。
また契約期間は3カ月以内と定められています。
専属専任媒介契約はさらにルールが厳格で、複数社との契約だけでなく、売主が自分で買主を見つけることもできません。
不動産会社によるレインズへの登録は契約から5営業日以内に、売主への業務報告は1週間に1回以上義務づけられ、契約期間は3カ月以内です。
このように媒介契約は種類によって売主や不動産会社に課される義務が異なります。
一般媒介契約は複数の不動産会社に売却を依頼できるので、立地条件の良い土地などは買主をより早く見つけられるかもしれません。
一方、売却に時間がかかりそうな土地などであれば、専任媒介契約や専属専任媒介契約で1社に任せ、売却活動に力を入れてもらう方法が有効な場合もあります。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
---|---|---|---|
複数社との契約 | ○ | × | × |
売主自らが発見した相手との取引 | ○ | ○ | × |
指定流通機構への登録 | 任意 | 7営業日以内(※1) | 5営業日以内(※1) |
売主への業務報告 | 任意 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
契約期間 | 制限なし(※2) | 3カ月以内 |
(※2)標準契約約款では3カ月以内
5.売り出し価格の決定
不動産会社と媒介契約を結んだら、物件の売り出し価格を決めます。
売り出し価格は査定価格を参考に決めますが、査定価格と同じ価格である必要はありません。
査定価格は不動産会社が「この価格なら売れるだろう」と判断して提示した金額です。
売主としてはなるべく高く売りたいと考えるのは当然のことなので、実際の売り出し価格は査定価格よりやや高めに設定するケースが多くなります。
ただしあまり高く売り出すとなかなか買い手が見つからず、あとで大幅に値下げすることにもなりかねません。
どのくらいの売り出し価格が適正なのかは、売却までの希望期間やそのときの相場の動きにも左右されるので、不動産会社と相談して慎重に決めましょう。
6.売却活動を開始する
売り出し価格が決まったらいよいよ売却活動のスタートです。
契約を結んだ不動産会社がチラシを打ったり、インターネットの物件情報サイトに登録するなどして購入検討者を募り、物件の見学を案内します。
購入を希望する人が現れたら、不動産会社から購入申込書が送られてきます。
価格や条件などを確認し、売却するかどうか不動産会社と相談しましょう。
購入希望者から値引き交渉が入ったり、購入希望者がなかなか現れない場合は、売り出し価格の見直しも必要です。
価格をどの程度引き下げるかについては、購入希望者の反応や相場動向を見ながら不動産会社と相談して決めるようにしてください。
7.売買契約を結んで引き渡す
購入希望者と価格や条件面で折り合いがついたら、売買契約を結んで土地を売却します。
契約日や物件の引き渡し日については買主の希望を確認し、不動産会社と相談のうえ決めましょう。
契約に必要な売買契約書や重要事項説明書は不動産会社が用意してくれます。
内容に間違いがないか、確認しておきましょう。
売買契約の当日は不動産会社が買主に重要事項説明をし、売主と買主が売買契約書を交わします。
このとき、買主から手付金が支払われるので、金額を確認しましょう。
引き渡しの際には買主から土地代金の残りが支払われるので、売主は必要な書類を買主に渡します。
買主が住宅ローンなどを利用する場合は、ローンの実行と抵当権の登記手続きを同時に行うため、金融機関で引き渡しの手続きをする場合もあります。
土地を高く売却するコツ
土地相場をチェックする
土地を少しでも高く売るためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
まず一つ目は、不動産会社に査定を依頼する前に土地の相場をチェックすることです。
土地の相場を調べるときは、インターネットの不動産情報サイトなどで周辺の土地がいくらで売りに出ているかをチェックします。
住所が近い物件はもちろんですが、同じ最寄駅で駅徒歩分数が同程度の物件や、更地だけでなく築20年以上の古家がついた物件なども参考にしましょう。
公的な地価情報も参考になります。
国土交通省の「土地総合情報システム」では地価公示や都道府県地価調査といった公的な地価調査のデータが見られるほか、実際の取引価格の情報を検索することもできます。
また一般社団法人資産評価システム研究センターの「全国地価マップ」 では固定資産税や相続税を計算する際の路線価なども検索可能です。
複数の不動産仲介会社に査定を依頼する
土地の価格査定をしてもらうときは、複数の不動産会社に依頼しましょう。
1社だけでは提示された査定価格が高いのか低いのか分からず、不動産会社の対応についても比較できないからです。
簡単な物件情報だけで査定する簡易査定は4~5社以上に、現地を調査して査定する訪問査定は3社程度に依頼することが望まれます。
なお、査定を依頼する不動産会社を選ぶ際は、土地の売買が得意だと思われる会社を選ぶようにしましょう。
マンション専門や賃貸専門の不動産会社に土地の価格査定を依頼しても、適切な査定が期待できない場合が多いからです。
また土地の所在するエリアに店舗を構えているなど、地域の事情に詳しい不動産会社に依頼したほうが高く売却できる可能性が高まります。
地域密着型の不動産会社がいいか、大手ブランドの不動産会社がいいかは一概には言えませんので、できれば異なるタイプの不動産会社に依頼することをお勧めします。
土地の見栄えを整える
土地が更地の状態だったり、空き家のまま放置されていると、雑草が生えたり建物が朽ちたりと、見た目の印象が悪くなる可能性があります。
場合によってはゴミ捨て場になってしまうケースもあるかもしれません。
そのような状態のまま購入希望者が見学に来ると、たとえ条件の合う土地でも買う気がなくなってしまうこともあり得ます。
せっかくの売却の機会を逃すことのないよう、草取りやゴミの片付けなどをして、土地の見栄えをできるだけ整えておきましょう。
土地の売却に必要な費用は?
土地を売却するときには、各種税金や費用がかかります。
それらの中には譲渡所得税や測量・解体費用、仲介手数料のように数十万円から100万円以上かかるケースがあるものもあるので、いくら必要なのか事前に確認しておきましょう。
まとめ
土地を売却するときに、その土地に古い住宅が建っている場合はそのまま古家付き土地として売るか、解体して更地で売るかを判断する必要があります。
また親などから相続した土地を売却する場合は、相続登記を忘れないようにしましょう。
土地売却はまず情報の収集や書類の準備から始まり、境界線の確認や不動産会社への査定依頼、媒介契約を結んで売却活動を開始し、買主が見つかったら売買契約を結び引き渡すという一連の流れがあります。
スムーズな土地売却のためにも、ダンドリを把握しておくことが大切です。
土地を高く売却するには、事前に土地相場をチェックし、価格査定を複数の不動産会社に依頼して比較する必要があります。
また草取りや片付けなど、土地の見栄えを整えることも重要です。
さらに資金繰りで困らないよう、売却にかかる税金や費用の金額を確認しておきましょう。
記事のおさらい
土地売却の流れは?
土地売却は、情報収集と必要書類の準備から始まります。準備ができたら不動産会社に査定を依頼し、媒介契約、売却活動へと進みます。詳しくは「土地売却の流れ」を参照してください。
土地を高く売るコツは?
土地売却にはいくつかのコツがあります。相場を把握すること、信頼できる不動産会社を見極めることなどです。詳細は、「土地を高く売却するコツ」を参照してください。
売却に必要な費用は?
土地売却には、各種税金や費用がかかります。 譲渡所得税や測量・解体費用、仲介手数料などは数十万円から100万円以上かかるケースもあるので、マネープランに入れておきましょう。目安や内訳は、「売却に必要な費用は?」を参照してください。
イラスト/カワモトトモカ
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う